おばちゃんは頼もしい
珍しく仕事中に電車に乗った。
築地まで、おつかい。
電車に乗ったら、車内でうずくまっているスーツ姿の男性が目に入った。
ん?と思ったけれど、周りの人は普通にしていたから「靴の紐?」なんて思いながらつり革につかまり、中吊り広告を見る。
ワタシが2枚の広告を読み終えてもまだ、20代前半と思しきその男性は立ち上がろうとしない。近寄って「大丈夫ですか?」と声をかける。ワタシの声に応えるように少しだけこちらに向いた顔は血の気がなくて、唇まで真っ白。ぎょっとして
「お顔が真っ白ですよ。次の駅で降りられますか?」
と、少し大きな声を出してしまう。ワタシの声で、そこにいるみんながワタシたちを見る。
か弱く首を横に振る彼が何か言葉を発したような気もしたけど、聞き取れなかった。
目の前に座っていた人に「具合が悪い様子なので席を替わってください」と頼んだ。一瞬見せる面倒くさいなぁという表情、そしてゆっくりとした動作で席を立つ、40代のサラリーマン。
座る場所は確保できたけど、立ち上がることも難しい様子。無理して立ち上がるのも良くないのかと思い悩んでいたら、築地でおばちゃん2人連れが乗ってきた。
「大丈夫ですか?」
「具合が悪い様子なんですけど、椅子に座るために立ち上がるのもつらいみたいなんです」
「座っちゃった方が良いわよ」
「そうよ」
そのおばちゃん2人連れが、抱えるように支えながら彼を椅子に座らせた。
「どこまで行くんですか?」
「築地ですけど過ぎちゃいましたネ」
「私達が見ておいてあげるから次で降りたら?」
「良いんですか?」
「私達しばらく乗るから大丈夫よ」
「じゃあ、降りますね、すいません」
そこにいるみんながワタシ達を見ていた。
コソコソと見ていた。
目の前に座っていた人の面倒くさいという顔。
胃袋の中で表面がヌメヌメした生き物が動いているような、真夏の直射日光ですっかり腐った生肉を食べさせられているような、そんな感触だった。
だけどワタシのイヤなキモチは、おばちゃん2人連れに、ずいぶん緩和された。