なんでってコトもないんですけど
それは、たいてい午後。
ワタシは一日に一度、これ以上ないワよ?というほどの真剣さで手を洗う。腕時計も指輪もはずし袖をぐいっとたくし上げ、まるでコマーシャルのチビッコのようにハンドソープを泡立てながら、一心不乱に手を洗う。その泡は手首の少し上までを包みこみ、時には肘のすぐ下にまで及ぶ。たぶんその時のワタシは、目が三角になっていると思う。
特に理由はない。
そもそものきっかけはどうしようもなく眠かった事だったと思うのだけれど、いつのまにか習慣になってしまったみたい。ふと気がついておもむろに席を立ち、訳もなく手を洗う。時間をかけて丁寧に手を洗う。
今日は、シンクでマグカップを洗った後、そのまま手を洗うことにした。
いつものように夢中で手を洗っていたら、その現場をおつかいに行こうとしている社長に目撃されてしまう。
「イシダさん、何やってんの?」
「ん!?手を洗ってるんです」
しばらくして、コンビニエンスストアの袋を下げた社長が戻ってきた。
「イシダさん、何やってんの?」
「ん!?手を洗ってるんです」
「また洗ってんの?」
「2回目じゃなくて、さっきの続きです」
「ずっと洗ってんの?なんで?」
「いや、なんでってコトもないんですけど...」
ただ手を洗っているところを目撃されただけなのに、なんだかとても恥ずかしくなってしまった。